こんにちは、つばさです。
緊急事態宣言により飲食店の営業は20時まで・酒類の提供はしない。
仕事終わりの「一杯だけ」もほぼできなくなってしまいました。
外で飲めないなら家飲みといきたいところですが「外で飲むよりはなんか味気ない」
そんな中アサヒビールが発売した「生ジョッキ缶」
発売から大人気でコンビニ発売は2日間で中止、一般販売も発売から2日で出荷停止ともの凄い反響です。
では今後、キリンビールやサッポロビールなどの他社メーカーが同様の製品を発売する可能性はあるのでしょうか

特許出願中て言ってるし、こんな斬新な技術他ではできないだろ
今回は知財部の私が生ジョッキ缶の技術と特許戦略(知財戦略)について考えます。
特許について
特許とは
まずは特許とは何か簡単に説明します。
この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。
つまり、世の中で初めて何かを発明した人に「独占権あげるからその技術公開して」ということです。
凄い発明したらお金儲けのために技術を隠しておこうと思いますよね。
でも、その人が死んでしまったら技術が無くなってしまいます。
それでは産業が発展しません。
発展を促すために技術を公開してもらい、誰でも同じ発明ができるようにします。
公開するだけでは発明者にメリットが無いので一定期間独占権を与えます。
この独占権を「特許」と言います。
特許出願中ってどういうこと?
後述しますが、生ジョッキ缶の技術については「特許出願中」という表記がされています。
これは「特許庁に申請中でまだ特許化されたわけではない」という意味です。
特許を取るまでの流れは以下のようになっています。

そして出願から1年6か月後、出願した全ての内容が公開されます。
「特許情報プラットフォーム」というサイトを使えば私たちでも「無料」で「世界中の全ての特許」を知る事ができます。

ちなみに生ジョッキ缶に関する特許はまだ公開されていませんでした。
公開されましたね。詳しくは「特許情報プラットフォーム」で「特開2021-80014」と検索してください。
生ジョッキ缶の技術とは
次に生ジョッキ缶にはどういう技術が使われているのでしょうか。
「アサヒビール社の今後の経営方針」を参考に紐解いていこうと思います。
- フルオープン缶であること
- きめ細かい泡であること
- 麦の香りと流量が従来より大きいこと
- 炭酸ガス圧が従来のビールサーバーと同等であること
- 特殊塗料により缶内側にカルデラ状の凹凸構造があること
生ジョッキ缶は特許を取れるのか
特許を取るためには「新規性」と「進歩性」という2つの項目について特許庁に認めてもらう必要があります。
新規性:新しい発明であること
進歩性:公知技術から容易に創作できない程度の困難性
生ジョッキ缶の各技術がこれらに該当するのかを考えます。
フルオープン缶であること

「食品缶詰等での採用実績はあるが飲料缶での採用は初めて」とのこと。
すでにある技術なので「新規性」は無いといえます。
「蓋側、缶胴側にダブルでセーフティ構造」についても同様です。

また1985年にサントリーが先駆けてフルオープン缶の缶ビールを発売したことがあるそうです。
そういった面からも新しい技術であるとは考えられません。
きめ細かい泡であること

これは缶内側の凹凸による影響なので後述します。
麦の香りと流量が従来より大きい

これはフルオープン缶による影響です。
口が大きくなればその分香りも流量も大きくなるのは当然です。
炭酸ガス圧が従来のビールサーバーと同等であること

炭酸ガス圧とビール泡の関係はすでに周知の事実らしく、調べると多くのサイトがヒットしました。
炭酸ガス圧は製造工程で調整できるようなので、これについても「新規性」はないと考えていいです。
缶の中では炭酸ガスがビールに溶け込んでいます。液温が低いと液体中に溶け込みやすく、高いと溶け込みにくいです。また、圧力が高いほど液体中に溶け込みやすく、圧力が解放されたときに液体から抜けやすくなります。
この性質を利用し、缶内部の圧力をお店などで使用しているサーバーと同等まで上げることで泡が発生する仕組みです。
「ITmediaビジネスONLINE」の取材によると、アサヒビールで缶ビールの開発担当は「泡を出してはいけない」「泡をこぼしてはいけない」と散々言われていたそう。
つまり今までも「缶ビールで泡は出せたけどあえて出していなかった」ということです。
特殊塗料により缶内側にカルデラ状の凹凸構造があること

アサヒビール自身も「自己発泡する缶胴」について特許出願中といっているため、この技術について深入りする必要があります。
缶内部に凹凸を付ける目的は「きめ細かい泡」を作るためです。
「開けると泡が出ること」だと思われがちですが、炭酸ガス圧で調整可能ですので新規性はありません。
なぜきめ細かい泡にしようとしたのかはわかりませんでしたが、細かいほうがクリーミーな味わいになるからでしょうか。
開発経緯について開発者は「シャンパン用のフルートグラスの底にあるキズ」をヒントに凹凸のできる特殊な塗料でコーティングしていると言っています。
つまり「凹凸により泡立ちの程度が変わる」ことは周知の事実なのです。
例えば、サントリー「神泡|プレモル」のWEBサイトでは、泡を長持ちさせるための専用グラスについて掲載しています。
これには「グラス内面に凹凸をつけて泡持ちを向上させる」とあります。

要はこのグラスが缶になったという感じですね。
生ジョッキ缶は特許を取れるのか
生ジョッキ缶に使用されている技術自体は既存のものばかりで、それを組み合わせて新しいものを作ったというイメージです。
何か工夫しないと特許化されるのは難しいのではないかと思います。
確かに缶ビールから泡が出るのは新しいです。
構造自体は新規性・進歩性があると考えるのもわかります。
しかしそれならアルミ缶にコーティングする特殊塗料の成分を明確にしたり、炭酸ガス圧の範囲を指定する必要があるのかなと思います。
炭酸ガス圧については従来のサーバーと同等ということですので、範囲は出願時に記載していると思われます。
一方、特殊塗料に関してはよくわかりません。
というのも、凹凸の程度により泡の大きさが変わるとのことなので、塗料の成分は全く関係ないからです。
缶の内側に凹凸さえできればいいので、この塗料は凹凸を作るための手段の1つでしかありません。
もし、特許の段階で塗料を限定してしまうと他社から摸倣を容易にしてしまう危険があります。
しかし限定しないと周知の内容になってしまうというジレンマです。
他社でも生ジョッキ缶は作れるのか
可能だと思います。
現在特許出願中であり、もうすぐ出願内容が公開されます。
その後、その内容に抵触しない形で他社が追随するでしょう。
しばらくアサヒビール1強は変わりませんが、生ジョッキ缶のようなものは今後出てくると思います。
さいごに
生ジョッキ缶の特許について考えました。いかがだったでしょうか。
特許のことや技術的なことで難しかったかもしれませんができるだけわかりやすくしたつもりです。
今後もビール業界から目が離せません。
(追記2021.6.15)再販されました。今後ももしかしたら売り切れの可能性はあるので飲みたい人は急いだほうがいいですね。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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